アニメや漫画のIP(知的財産)が持つチカラを、単なる商業的な成功だけでなく、「地域の活性化」や「次の世代への継承」へとつなげる。そんなピュアな想いから始まった、ユニークな地方創生プロジェクトが山梨県で動き出しています。
昭和、平成、そして令和へと世代を超えて愛され続ける国民的キャラクター『ど根性ガエル』。そのIP運営を手掛ける「ど根性カンパニー」が今、原作者・吉沢やすみ先生の故郷である山梨県を舞台に、新プロジェクト「ど根性ヤマナシ」を始動させました。
単なる「キャラクターの貸し出し」にとどまらない、地域に深く根ざしたコラボレーションはどのようにして生まれたのか。ど根性カンパニーの伊藤さん、そして相馬さんにお話を伺いました。

『ど根性ガエル』を次の世代にも繋いでいきたい
──まずは「ど根性カンパニー」がどのような会社なのか、そしてお二人の役割について教えていただけますか。
伊藤さん:私たちは一言でいうと、名作『ど根性ガエル』のIP(知的財産)運営を専門に行っている会社です。具体的には、公式サイトの運営やPR、公式SNSの発信、および各種コラボレーションや商品化の窓口などを行っています。
──『ど根性ガエル』は長年愛されている歴史ある作品ですが、日頃からコラボの引き合いなども多いのでしょうか。
伊藤さん:ありがたいことに、毎週1〜2本はコラボや商品化のお問い合わせ、営業のご連絡をいただいています。このように常に何かしらのお仕事をいただいている状況ではあるのですが、原作者の吉沢やすみ先生も含め、私たち「ど根性カンパニー」は、会社として単なる「経済的な成功」や利益の最大化を目指しているわけではありません。
それよりも、何十年経っても『ど根性ガエル』という素晴らしい作品やピョン吉というキャラクターを、後世に、そして次の子どもたちに残していきたいという思いが何よりも強いんです。そのため、「ただお金になるからやる」のではなく、「これは本当に面白い企画か」「みんなに笑顔で受け入れられる、意味のある仕事なのか」という部分を基準にしています。極端に言えば、お互いがワクワクできるノリのようなものを大切にしながらプロジェクトを選んでいるのが、私たちの大きなベースにあります。

吉沢先生の故郷・山梨で始める、新たなアクション
──それでは、今回「山梨県」を舞台にした「ど根性ヤマナシ」プロジェクトが動き出したきっかけを教えてください!
伊藤さん:私たちは大企業ではありませんから、全国各地へむやみやたらに営業をかけて回るようなリソースはありません。そうした中で、「自分たちからもっとアクティブに、何か面白いアクションを起こしていきたいね」という話が持ち上がったんです。
では、どこを舞台に、何から始めようかと考えたときに浮かんだのが、原作者である吉沢やすみ先生の出身地である「山梨県」でした。吉沢先生は毎年山梨県の温泉へ旅行に行かれるなど、故郷をとても大切にされています。自分たちがアクティブに動くなら、やはり先生にとっても縁の深い山梨県にしようと決めたのがきっかけでした。
──なるほど。自分たちからアクティブにアクションを起こそうと考えた際に、吉沢先生のルーツである山梨県が真っ先に浮かんだのですね。
先生にご相談されたときの反応はいかがでしたか。
伊藤さん:吉沢先生にこのアイデアをお話ししたところ、「それいいね」と賛同してくださいました。先生にとってもやはり生まれ育った故郷としての思い入れがありますし、せっかく縁があるのだから、山梨の皆さんにも喜んで受け入れてもらえたらいいね、という気持ちもお持ちのようです。
発端としては私たちから先生へ企画を相談した形ではありますが、吉沢先生の「故郷への想い」と、私たちの「山梨でできたら絶対に面白そうだ」というワクワク感が合致して、大きく動き出したプロジェクトになります。
相馬さん:私たちは営利企業ではありますが、その活動のベースには常に「吉沢やすみ先生の思いを叶えたい」という目的があります。先生との会話の中で「故郷」という温かいワードが出てきたからこそ、そこにしっかりと根ざしてやっていこうという、非常にピュアな気持ちでこのプロジェクトをスタートさせました。そして将来的には、山梨県の顔として、地域にしっかりと根付いて誰からも愛される存在になってくれればという大きな願いも抱いています。
移住と数々の出会いがもたらした、山梨での本格始動
──みんなに受け入れられる存在を目指して、吉沢先生と縁の深い「山梨県」がベストであると。
そこからどのように具体化していったのですか?
伊藤さん:実は個人的な話になるのですが、私は趣味が山登りということもあって、2025年の6月頃に甲府市に移住してきたばかりなんです。そこが偶然にも重なって、自分が実際に甲府を拠点として、すぐに現地で動ける環境が整っていたというのも大きな要因でした。
移住してから、山梨のために前のめりに活動を広げていったところ、2025年の秋頃から幸運なことに、現地の様々な業種の方々と繋がることができました。皆さん、私たちの話を聞いて「面白いね!」と、非常に好意的に受け止めてくださって。
──具体的には、どのような方々との出会いだったのでしょうか。
伊藤さん:例えば、山梨の地方銀行の方や、地元の広告代理店の方などですね。「ど根性ガエルで山梨を盛り上げる」という提案に対して、皆さんとても熱量高く共感してくださって、「これなら形になる!」と確信し、本格的にプロジェクトを推進し始めました。山梨には「この地域をもっと熱く、元気にしたい」と考えている魅力的な方々が本当に多くて、短期間で素晴らしい出会いに恵まれたなと深く感謝しています。

山梨といえばピョン吉!──中長期的に愛される地域共生へ
──今後、山梨県でどのような関わり方を想定し、どのような存在を目指していきたいのでしょうか?
伊藤さん:私たちの目指す最終的なゴールは、山梨といえば『ど根性ガエル(ピョン吉)』と言われるような、その地域を象徴する誰もが知る愛すべき存在に育てていくことです。
ただ、これを「来年すぐに達成しよう」とか「再来年までに形にしよう」といった急いだスピード感では全く考えていません。そんなに簡単なことではありませんから、中長期的な視点を持って、じっくりと山梨の地にキャラクターを根付かせていきたい。そのためにも、一方的な押し売りではなく、自治体や現地の企業の方々とお互いに手を取り合い、Win-Winとなるような「受け入れられやすい仕組み」を丁寧に構築したいとアプローチを続けています。
相馬さん:山梨県といえば「ど根性ガエル」という認知が浸透すれば、地方創生や、地元のビジネスを盛り上げるための非常に強力な武器になってくれるはず。いわゆる『ゆるキャラ』のように、地域に溶け込んだ親しみやすい文脈で広く使っていただきたいと考えています。
ですから、私たちは民間の商業的な利用だけにとどまらず、社会性や公共性が高い団体、公共施設、コミュニティスペースといった場所で、積極的にキャラクターを活用してほしいと思っています。まずは公共的な場で親しんでいただき、そこから「山梨で活動している企業やスタートアップ、新しい施設でもIPを使い始めよう」という動きに繋がったり、「こういう面白い使い方はどうですか?」と地元の方から声をかけてもらえたりしたら、これほど嬉しいことはないですね。
──公共的な活用というと、具体的には学校や市役所といった分野ですかね。
相馬さん:その通りです。特に未来を担う子どもたちが関わる場所では、ぜひ積極的に使っていただきたいですね。
例えば、「防災用品」に活用できないかと現在検討を進めています。これは「カエル」という言葉の響きに由来しているのですが、カエルには「無事カエル(無事に帰る)」「チェンジ(変える)」「リターン(蘇る)」といった、非常にポジティブで前向きな意味合いがたくさん含まれています。
この「無事カエル」というメッセージを込めて、例えば災害時用の簡易トイレといった防災用品を、地域の小学校へ無償でプレゼントするような取り組みを想定しています。子どもたちに「郷土の温かいキャラクター」として知ってもらいつつ、実際の防災意識の向上や実生活の支援にもつなげていく。こうした取り組みを実現できたら面白いですよね。
日本一人口の少ない町・早川町との「山村留学」コラボレーション
──現在進行中のプロジェクトとして、山梨県の「早川町(はやかわちょう)」での取り組みについて、詳しくお聞かせください。
伊藤さん:山梨県早川町は、実は「日本で最も人口が少ない町(※離島を除く)」として知られています。そんな早川町が持つ豊かな自然や地域の温かさと、『ど根性ガエル』が持つたくましさを掛け合わせる。そして、一緒に町をアピールし、大きく成長していこうとお手伝いすることとなりました。
実は早川町は、全国に先駆けて「山村留学」や、親子での地方定住支援をいち早く導入した先進的な自治体なんです。町としても、この取り組みをさらに強化し、町の確固たるシンボルにしていきたいという本気の想いがあり、予算をしっかりとつけて全国へPRしようと、山村留学『プロジェクト・ダーウィン』を立ち上げられていました。
──その本気のプロジェクトに、どのように『ど根性ガエル』が合流したのですか。
伊藤さん:ちょうど先ほどお話しした、山梨の広告代理店の方からのご紹介が縁となり、早川町の教育委員会の方からお声がけをいただきました。すでに町として熱意を持って動き出していた『プロジェクト・ダーウィン』の広報活動に、私たちのIPを使っていただくことで、全国的な知名度を持つ『ど根性ガエル』が広告塔となり、県外の方々に対しても大きくアピールできる。お互いにとってWin-Winの関係ですし、何よりも「山梨を一緒に盛り上げていきたい」という双方の想いに共感し、「ぜひご一緒しましょう!」と意気投合しました。
──具体的に、現在はどのようなコラボレーションが進行しているのでしょうか。
伊藤さん:現時点における第一弾のステップとして、今年の5月から県外に向けて実施されている「山村留学」の募集活動のWeb広告において、『ど根性ガエル』の原画イラストを使っていただいています。子どもたちが大自然の中でキャンプを楽しんでいるような温かみのある絵柄で、先日弊社からもこの件に関するプレスリリースを配信したのですが、非常に親和性の高い素晴らしいビジュアルに仕上がりました。まずはこうした募集素材としてお使いいただき、しっかりと認知を広げていきます。
また、今後の展開として、早川町の魅力をダイレクトに伝えるための「描き起こしイラスト」を使ったPR活動を行うこともすでに決定しています。具体的な活用方法については現在アイデアを詰めている段階ですが、描き起こしイラストはファンの方にとっても地域の方にとっても特別なものになるはず。吉沢先生自身も、この早川町との取り組みを喜んでくださっています。

今後の展望と、現代社会にこそ必要な「ど根性」のメッセージ
──今後の展開や、このプロジェクトを通じて社会に届けたいメッセージを教えてください。
伊藤さん:私たちの願いは本当にシンプルで、山梨県のシンボルキャラクターとして、ピョン吉たちが様々な場所で当たり前のように愛され、活用される存在になっていくこと。ただそれだけです。焦らず、地元の方々に愛される形を模索し続けたいですね。
相馬さん:メッセージとしては、やはり「ど根性で山梨を、そして日本を元気にしていきたい」ということに尽きます。
『ど根性ガエル』は、日本全体がとても明るく、明日を信じて前向きに突き進んでいた時代のエネルギーに満ちあふれた作品です。現代の社会は、良くも悪くも「効率」や「コストパフォーマンス(コスパ)」が重視されすぎていて、泥臭い努力や無駄に思える頑張りが時として否定されてしまいがちです。
しかし、この作品が持っている「もう少しだけ粘り強く頑張ってみたら、何かいいことが起こるかもしれない」「不器用で大変だけど、友達のために一生懸命にがんばってみたら、もっと深い友情や楽しい出来事に出会えた」という泥臭いメッセージは、今の時代にこそ強く響くのではないでしょうか。
──「効率」ばかりを求める現代にこそ、「ど根性」の泥臭さが温かく響くのですね。
相馬さん:ええ。「ちょっと一歩を踏み出して、もう一踏ん張り頑張ってみよう」というポジティブな心意気こそが、私たちの考える「ど根性」です。
この前向きな意味合いを持って、全国の企業や自治体、団体の皆さんに、このIPをどんどん元気のシンボルとして使っていただけたら嬉しいです。もちろん、山梨の魅力を引き出すための親しみやすいドアノックツールでも構いません。地域の素晴らしいシンボルとして、山梨の地に長く根付いていくことを心から願っています。

【編集部まとめ】
吉沢やすみ先生の故郷への温かい想いと、ど根性カンパニーの「作品を後世に残したい」という純粋な願いが結びついて生まれた「ど根性ヤマナシ」。
日本で一番人口の少ない町・早川町での「山村留学」とのコラボをはじめ、その歩みは決して商業第一主義ではなく、地域の子どもたちの未来や、防災といった「公共性」を第一に考えた温かいものでした。
現代社会が忘れがちな、泥臭くも愛おしい「ど根性」の精神。ピョン吉の元気な姿が山梨の街並みに溢れる未来は、私たちに「あきらめずに、もうちょっとだけ頑張ってみよう」という前向きなパワーを届けてくれるはずです。